埼玉奨学金ネット通信 創刊号

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奨学金問題に取り組む団体

埼玉奨学金問題ネットワーク発足

9月28日(土)、さいたま市の埼玉教育会館においいて設立総会が開催され、埼玉奨学金問題ネットワークが発足いたしました。

設立総会では事務局長の鴨田弁護士から、世帯収入の減少と学費高騰を背景に多額の奨学金債務を抱える学生が増えている現状を受け、教育の機会均等を実現できる奨学金制度への働きかけを行う団体を設立するという設立趣旨及び規約の説明がなされました。
本団体は弁護士、司法書士、研究者、教育関係者、学生、生徒らから構成されます。
続いて事務局次長の安野司法書士より役員候補者の提案があり、満場一致で可決承認されました。

埼玉奨学金問題ネットワークの代表に就任した、聖学院大学の柴田教授は挨拶の席上、現状の奨学金制度に対して「受益者の自己責任とするならば、親族保証人など取らずに本人で完結すべき」など問題点を指摘し、全体の数字に囚われず、免除規定の適用など一人ひとり個別の支援が必要と訴えました。

奨学金問題シンポジウム

団体の設立を記念して、第一回シンポジウムが同日、開催されました。
会場には教育者、学生、法律家総勢70名の参加者が訪れ、発表者の話に真剣に耳を傾けました。

奨学金問題の身近な相談の受け皿に

奨学金の返還を延滞すると、その債権はサービサーに譲渡され、過酷な取り立てが始まります。
逃げ場も救済手段も無いまま精神的に追い詰められる人々が多く生まれています。
「奨学金」というよりは「教育ローン」といえる制度を鑑みて、進学を断念する学生も現れ始めました。
こうしたことを憂慮して本年3月に「奨学金問題対策全国会議」が設立され、その後兵庫、大阪、愛知、北海道の各地でも取り組みがすでに始まっています。
埼玉県においても、困窮者の身近な相談窓口として、また、奨学金制度の在り方について、団体を設立して取り組んでまいります。

学びたい人が受けられる奨学金へ

シンポジウムでは奨学金を借りている当事者の方からも発表いただきました。
少ない収入の中から多額の奨学金を返還中で、たとえ体調を崩しても病院にも行けない、失敗することが出来ない漠然としたプレッシャーの中で生きているという談に、会場は静まりかえりました。

基調講演 「今」を生きる、子ども・若者に共感と希望を

大人に余裕のない貧困家庭では、子どもに対し、基本的生活習慣を身に付けさせるといった当たり前の世話焼きがなされていない。
「学び」は大人から与えられるべきもので、それがなければ発達の可能性、社会に参加する機会を奪われてしまう。
現状、大学を卒業せずに正規社員になる道は厳しく、「学び」を与えられなかった貧困家庭の子はまた貧困となる。
このような貧困の連鎖は社会的に大きな損失である。

下のグラフにある通り、大学の学費は高騰している。
世帯年収の減少により、年収に占める教育費の負担割合は39%と過去10年間で最大となった。
graph

また、日本の初等中等教育機関への財政支出の対GDP比は、OECD加盟国29か国中27位と低い。
2010年、国連「子どもの権利委員会」から日本政府は次の指摘を受けることとなった。

「貧困を背景とした親子関係の荒廃が、子どもの情緒的及び心理的幸福度に否定的な影響を及ぼしている」
「子どもの幸福および発達のための補助金、手当が貧困の増加に比して増えていない事を懸念する」

学びを保障することで、子どもたちの世界が広がり、ちゃんとした大人へと育っていく。
親たちに子育ての余裕を与え、教育の充実と機会均等を実現することが、「未来への再生産」につながるのである。

奨学金問題の現状と課題

奨学金問題対策全国会議
事務局長 弁護士 岩重佳治

私が初めてこの奨学金問題に触れたとき、多重債務の問題と同じ臭いを感じました。
必要な支援が行われず、それを借金という形で個人に押しつけている点が全く同じだからです。

収入が減っている問題。
大学の学費が高騰している問題。

不充分な教育支援制度のもと、自分の力ではどうしようもない理由で返済困難に陥って、無理な返済を強いられている。
これは構造的に生み出されている被害者にほかなりません。
「受益者負担」という、一見もっともらしい理屈で負担が個人に押し付けられていますが、そもそも国民に教育をうけさせることで利益を得るのは社会じゃないでしょうか。

学生支援機構の奨学金には、返済困難時の救済制度があります。
しかし、極めて不十分なことに加え、様々な運用で利用を制限しています。
たとえ全上下肢麻痺で収入を得ることが不可能な状態であっても免除を受け付けてもらえず、まずは猶予申請をするようにとの指示が来るわけです。

取り立ても厳しい。
これまで消費者金融で債権回収をおしていた人たちが、ここでは錦の御旗を持って勢い勇んで取り立てに来る。

このような現状を打開し、真に学びと成長を支える奨学金を目指して奨学金問題対策全国会議は設立されました。
その後愛知や北海道などでも地域での取り組みが始まっています。
若い人を中心に、共感をもって運動を広げていけるような素晴らしい取り組みです。

今回発足した埼玉奨学金問題ネットワークは、法律家の参加が多い点も特徴的です。
是非、他の地域同様、活発に活動が行われていくことを期待しています。

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